お知らせ

2021年02月03日

立春大吉

立春の文字美しき便りかな 平居澪子

良寛さんが国上山の冬ごもりを解いて里に下り、子供らと手まりをついて過ごす日がもうすぐやってくるでしょう。待たれる春はうらやましい季節です。

 大日本印刷の「市谷の杜 本と活字館」が2021年2月11日(木)から一般公開されるそうです。2000年に凸版印刷が開設した「印刷博物館」と双璧を成す印刷文化の発信所に育ってほしいと思います。日本の各地に、印刷所や印刷を愛する人たちが、関わりのある印刷遺産を展示し印刷体験の場所を提供しています。そのようなところを訪ねてみると、本やチラシ・ポスターや書類やステーショナリなどの印刷物は、いろいろな分野の専門知識の集大成であることに気が付きます。活版印刷による書籍制作は、書体設計、父型・母型製作、鉛・錫・アンチモンの三種合金を型に流し込み活字その物を作る鋳造、活字棚から使用する活字を順番に揃えて文選箱に詰め込む文選、その活字をステッキにレイアウトしながら一頁を組み上げてゆく植字、出来上がった版を印刷機械に乗せて印刷する印刷、刷り上がった全紙を手織りで折丁を作り、一冊分を手で丁合を取り、製本をすることで一冊の本が出来上がります。この工程が現在は全てが機会化され、コンピュータで制御され、印刷物が制作されるようになったのです。
 私が印刷業界に足を踏み入れたころは折機械が無く、朝一番の仕事は折丁を作ってもらうために、刷り上がりの全紙を各家庭のアルバイトの奥様方に配布して回ることでした。その折の手際の良さは瞬く間で、三度パシッと大きな音がすると同時に出来上がっているのです。あのような名人技はすでに知る人も少ないでしょう。これはほんの一例にすぎません。手仕事の時代の各工程には名人技とエピソードがこぼれるほどあると思います。そんな話を私も聞いてみたいと思ってるのです。
 一粒の活字生成方法の発明が、一千年以上の旅を経て中国から辿りついた紙と出会い、組版された活字群を紙にプレスする機械を生み出し活版印刷が発明された時から570年ほどが経ちました。今は皆さんのパソコンで自在に印刷を楽しむことができる時代になりました。改まった印刷をするときは、専門家の手を借りると新しい発見があるかもしれません。楽しみの幅が広くなることでしょう。